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[M] 生命誕生 : 地球史から読み解く新しい生命像
中沢弘基著
著者: 中沢弘基 出版者: 講談社
(出版日: 2014-5)
雑誌・シリーズ情報: |
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形態: | 冊子体 |
言語: | 日本語 |
ページ数と大きさ: | 18cm; 318p |
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識別子: | ISBN: 9784062882620 |
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2014.05.30著者による新刊紹介NIMS:
「生命誕生-地球史から読み解く新しい生命像」(講談社現代新書)
「生命の起源」は古来諸説があり、生命の起源に“関する”事象や仮説は数え切れないほどたくさんあります。しかし、なぜ生命が発生したか?なぜ生物は進化するのか?の「必然性」を物理として論じた書は、筆者の知る限りありません。生命は発生し、生物は進化するもの、とア・プリオリに考えられているようです。
生命の起源は有機分子の進化の帰結であり、その後生物は進化して多様化しますが、なぜ分子や生物が進化するのか?“進化”の物理的必然性が判らなければ、何がどうなって生命が発生したかは判りません。たとえRNAやタンパク質の構造や機能が詳しく判っても、それらがどうなって生命の起源に至るか、の過程は見えてきません。著名な“RNAワールド”説も、なぜRNAができなければならなかったのか?RNAがあったらなぜ代謝機能を有する個体が発生するのか?進化の物理的必然性が判らなければ、RNAがあったとしてもその先どうなるか、生命の起源に迫ることはできません。
生命起源に関する広範で、膨大で脈絡のない玉石混淆の過去の知識に面して困惑した著者は、分子進化と生物進化の物理的必然性の視点から取捨選択することにしました。分子でも生物でも、“進化”という現象は、個々の分子や生物種ではなく46億年の全地球の時空を対象とした現象ですから、熱力学の法則で言う「宇宙(反応系)」は地球全体であるとして考えなければなりません。そうだとすると、「宇宙(反応系すなわち地球)」が熱を放出してエントロピーの低減することが、有機分子の秩序化すなわち分子進化の必然性であり、生物進化や多様性の必然性である、と理解することができます。いわば熱力学第二法則による生命起源論です。生物の出現と進化はエントロピーの低減による「地球軽元素の秩序化」であって、それらは地球史の必然だと考えたのです。
そうだとすると、火星やエンセラダスに生物がいる“かも知れない”とか、RNAが“あれば”生命が発生した、などの多くの仮説は自然に淘汰されてしまいます。46億年前、“火の球”だった地球が、宇宙に熱を放出して冷却し、地球のエントロピーの減少に従って進化(組織化)する地球史を化学的に考察すれば、自然に生命の起源が理解できるはずだからです。本書では、地球の水素や炭素から生命が発生するまでを、地球環境での「有機分子の自然選択」として具体的に論じました。
そして、40~38億年前にあった隕石の“後期重爆撃”によって大量の有機分子が生成したことを、NIMSの火薬式衝撃銃を用いた実験によって実証し、それらが海底の地下の厚い地層の中で高分子に進化したであろうことを、やはりNIMSの超高圧実験装置により実証しました。本書の5章、6章です。
本書第7章では、高分子が熱水環境をサバイバルする条件を考察して、個体の発生、代謝機能と自己増幅機能の獲得、そして生命発生の段階を論じ、第8章では、本書をまとめて、分子の進化から生物進化を一枚の「地球軽元素進化系統樹」として表しました。
本書は、NIMS発の、物質科学的立場からの新しい生命起源論です。同僚諸兄姉の御批判をお待ちします。
NIMS名誉フェロー中沢弘基